関所
土方午後9時。
14歳の私が遊び歩く時間ではない……と思う。
かれこれ10分くらい屯所の入口前でたたずんでいる。
なんでって、入口の電気がバッチリついていて、私を待ち構えているのがわかるから。
なかなか入る決心ができないのだ。
私は幼い時に両親を亡くし、近藤さんの厚意で真選組に保護されている。
だからほとんど真選組で育てられたようなものだ。
そんなことは今どうでもいい。
とにかく、この危機から脱出したい。
(……どうしよう)
朝までここにいるわけにはいかない。
それはわかってるけど・・・入る勇気は出ない。
こうしている間に時間はどんどん過ぎていく。
(……こっそり入ったらバレないかな……)
引き戸を少しだけ開けてそっと覗いてみる。
「…っ……!!」
バンッ、と慌てて戸を閉める。
目が、合った。
「いつまでそこにいるつもりだ、てめーは」
私が急いで閉めた戸があっさり開けられ、玄関で立っていた男が出てきた。
「…トシ……」
この男こそが私の世話係であり、現在私を苦しめている元凶、鬼の副長土方十四郎である。
「日が暮れるまでに帰って来いって言っただろーが。今何時だと思ってやがる」
「………………」
「なんですぐ入って来なかった」
「……だって…」
思わずうつむいてしまう。
トシが待ち構えてたからだってば。
ちょっと遅くなったくらいでそんなに怒んなくてもいいじゃん。
「門限守れって話はこないだしたばっかりじゃねェか。ちったぁ懲りろ」
「…だってっ……」
「だって、じゃねェだろ。何して遅くなったんだ?」
「……………………」
返答に困る。
何、って理由はない。
楽しんでる時にすぐ帰るのがもったいなくって、友達はまだ大丈夫って言うから私だけ帰るのもイヤで……
「……別に、普通に遊んでただけだよ」
「時間も見ずにか?」
「見てたけどっ……、……みんな帰らないし、もうちょっとならいいかなって……」
トシの眉が動く。
そして少し口角を上げて、でも全然笑ってない目で続けた。
「ほぅ……怒られるだけで済むなら門限くらい良いって思ったのか?」
「……っ…………」
マズい。
怒らせた……?
「仕置きを差し引いても遊びを取ったってことだな?」
「……………………」
言葉が出ない。
行き場のない手で自分の着物を掴む。
「そりゃあ随分とナメられたもんだなァ?あぁ?」
ヤバい。
絶対怒ってる。
怖い、怖い、怖い!
「上等じゃねぇか。二度とそんな気起きねぇようにしてやる……覚悟しやがれ」
「ひゃっ……やっ、やだトシっ! やだっ!!」
ひょい、と私を肩に担ぐと、トシはスタスタといつもの場所へ向かう。
私がひそかに『処刑場』と呼んでいる、トシの部屋だ。
ガラガラガラッ……バン!!
トシは私を抱えたまま部屋に入り、乱暴に戸を閉める。
そして床に胡坐をかいて、ジタバタ暴れる私を膝に乗っけた。
「いやぁ……やだっ、やだぁっ……」
必死に逃げようとするが、トシは私をしっかり押さえつけて着物をはだけさせ、下着を膝まで下ろす。
パァン!
「ひゃあっ……!」
裸のお尻に平手が降ってくる。
「あぁっ……うっ……」
そのまま立て続けに叩かれて、トシの足をドンドンと殴って抵抗する。
しかし、振り下ろされる手は緩むどころか強くなった。
「やぁっ…痛いっ……いやっ…」
「ひっぱたかれんのわかっててこんな時間まで遊んでたんだもんなァ?」
「ちがっ…うっ、てば…やっ……」
「覚悟は十分できてるんだろ?」
「あっ…やっ……いやぁっ……」
「嫌、しか言えねェのか。他に言うべきことがあるだろが」
「…っ……うっ…だってぇ…」
謝らなきゃいけないのはわかってるのに、ちゃんと言えない。
自分の非を認めるのは、やっぱりなんか悔しくて。
今こうして怒られてるのが悔しくて。
「……ちょっと、遅くなっただけだった、のにっ……トシが……怒るから、帰れなかったんだもん……」
でも、その態度がかえってトシを怒らせることになるのもわかってる。
バチン!
「ひあぁっ!!」
一際強く叩かれた。
「この期に及んで言い訳か、あァ?いい度胸だ」
バチン!バチン!
トシはさっきまでより力を入れて、左右交互に叩く。
痛みが引く暇もなく連続で平手を浴びせられて、痛さと怖さで涙が滲む。
「いぁっ……ちがうっ、ちがっ……あっ」
「何が違うんだコラ」
「……うっ…ひっく……っ…」
きっとお尻は真っ赤だ。痛さでじっとしていられず、思わず身じろぎするがトシの左腕がそれを許さない。
上手く言葉が出ない代わりに涙が溢れてくる。
「泣いてるだけじゃわかんねェぞ」
「……あぅっ……うっ…も、はんせ……したっ…」
「…何を反省したんだ?」
「…っ……門限、…破ったっ……」
「で、言い訳したんだろ?」
「……あっ…ぅ……したぁ…うっ……」
「なんて言うんだ?」
バチン!
「…ひぅっ…ごめん、なさ…ごめんな…さ…ごめんなさいっ……っぅ…うっ……」
やっとのことでそれだけを言うと、あとはもうしゃくり上げることしかできなくなっていた。
トシは軽く溜息をつき、体を押さえつけていた左手で私の頭を撫でる。
「…もう破るんじゃねェぞ」
その言葉がお仕置き終わりの合図。
やさしい言葉をかけてくれるわけじゃないけど、私が泣き止むまでこのままでいてくれる。
お尻はまだ痛いけど、ちょっとだけ、心地いい時間。
(……もう終わりみたいですぜ)
(ちゃん大丈夫かな!? ちょっと厳しすぎなんじゃないのトシぃ!!)
(近藤さんが甘すぎなんでさァ)
戸の向こうで見物ならぬ聴物している局長とドS王子に、この時はまだ気付いていない私なのだった。
<あとがき>
これは完全に台詞から思いついた話です。
ちょっとくらい門限に遅れても、怒られることを考えた上で破るなら怖いもん無しだよね~、と漠然と考えて(私はつくづく悪者の考えだな)、「ほぅ……怒られるだけで済むなら~」から「……覚悟しやがれ」までの4つの台詞が浮かび、膨らませました。
いや、でもいざお仕置きとなると絶対逃げたくなるよね。
あ、ちなみに胡座は“あぐら”と読みます。自分でも読みにくかったので一応……
変換してみて、読めないなーってやつはひらがなにするようにしてるんですが、胡座は漢字の方がさまになる気がしまして(笑)。
この子は土方にお仕置きされていることをみんなに知られてるといい。
で、土方のフォローが少ない分みんなに慰められてるといい。
で、土方がみんなに責められるといい。
そんな裏設定。
08.06.05