お仕置き、その後。
銀時「……おーい」
「うるさい」
ソファに座った銀時が、部屋の隅のに話しかける。
は不機嫌そうにそっぽを向く。手はお尻を庇うように甲でそっと触れていた。
なんで俺が機嫌取らなきゃいけねーんだ。
お仕置きを終えたはいいが、どうやら心から反省したわけではないらしく謝らせられたことが屈辱だったようだ。
どうすんだよ、この空気。
いや別に俺が悪いわけじゃねェし。
むしろこいつが悪いからお仕置きに至ったわけで。
それほどキツく叩いたつもりもない。それどころか少し加減したからこそ、も反抗する余力があるのだ。
「ちゃーん何怒ってんの」
「うるさいっつってるでしょ」
下手に出るがこの通りだ。
銀時は半笑いで額に青筋を立てる。
(……さっきまで膝の上でビービー泣いてたのによ)
先程のごめんなさい連呼はなんだったのか。
もうしない、反省した、って言ったのは誰だよ。
何ですか、反省したらそのあとは逆ギレしてもいいんですか。
考えていると、だんだん腹立たしく思えてくる。
(怒ってんのは俺だっつーの)
は相変わらず、わかりやすいシカトを決め込んでいる。
さっきより少し低いトーンで銀時が声をかけた。
「いつまでも拗ねてねェでこっち来いよ」
少し戸惑いつつ、は小さく返す。
「べ……つに、拗ねてない」
銀時はあきれたような顔つきで、膝に置いた手をクッションにして立ち上がる。
しゃがんだの後ろに立ち、見下ろして言った。
「拗ねてんだろーが! あのなぁ、お前ホントに反省してるワケ? その態度どうかと思うよ? ん?」
「……したって言ってるじゃん」
なお意地を張るに軽くため息をついて頭を掻く。
「あーもー銀さんやってらんねェわ。言わしてもらうけどねちゃん、そういうのは反省したって言えないの! お仕置き終わったからってそんな余裕こいてたら怖いよマジで? なんならもっぺん泣かしてやろうかコルアァァアァ!!」
思いの丈を一気にまくしたてた。
銀時の声が響いた後シンとした部屋に、が鼻をすする音が聞こえる。
(……………………あれ?)
「…………っく……」
(…………泣いてんのかよ)
頭にのぼっていた血が下りる感じがした。
お仕置きの最中は泣かれたからといって許したりはしないが、どうもこういう涙には弱い。
再び頭をボリボリ掻いて、の隣にしゃがんだ。
撫でてやろうと銀時が手を伸ばすと、がそれを払いのける。
「…っ……さわんないでっ…………」
その強気な態度も涙声では怒る気にならない。
もその声に自分で気付いたせいなのか、もう涙が止まらない。
「……ぅっく……うぅぅっ……」
もはや自分ではどうして泣いているのかわからないようだ。
怒られたのが悔しいとか、素直じゃない自分が嫌だとか、それを悟られるのが恥ずかしいとか、そういうものすべてが涙になってあふれている。
「ほーらもう泣かないの」
しゃくり上げるの背中をポンポンと叩く。
「……こういうこと言われたくないってお前の性格はわかってるつもりだけどよ」
意固地なだから、怒られたってなかなか受け入れられない。
銀時だってそれは知っている。
だからこそ、銀時にしか言えないことだってある。
「いいだろ、俺には恥ずかしいとこ見せたって」
「…………銀ちゃんだから嫌なの」
「おーそりゃ大胆な告白どーも」
「ちがう~…………」
今日はこれで許してやるか、なんて。
やっぱり俺は甘いのかねェと銀時は少し笑うのだった。
<あとがき>
お仕置きって、キーちゃんが素直になれる方法だと思っていましたが、よく考えたらそういうので素直になれる子は元々素直な子なんでしょうねぇ。
素直になれない子はとことん反抗する。
怒られようが、お仕置きされようが、なだめすかされようが、どうやったって恥ずかしいもの。
むしろ、怒られたりなだめられたりで甘えるってことが恥ずかしい。そんなへそ曲がり。
というわけで書いてみたのがこれでした。
10.10.12