時に手段は目的に取って代わる
銀時この日銀時は、真選組の屯所へ一人で来ていた。
万事屋の仕事だが、簡単な屋根修理だったため銀時のみで引き受けたのだ。
直し終えた報告をした後廊下を歩いていると、ある一室のふすまが勢いよく開いた。
ドンッ
「おっと」
走って出て来たのは14、5歳の少女。
ぶつかった相手を知ろうと見上げた瞳が涙に濡れていた。
「……っ…………」
泣き顔を見られたのが恥ずかしかったのか、顔を赤らめて走り去ってしまった。
本人には悪いが、少し微笑ましい。
銀時は開きっ放しになっているふすまを通る。
「オイオイ、嬢ちゃんが泣いてたぜ?」
胡坐を掻いた土方が、不機嫌そうにギロリと視線を向ける。
「泣かせたんだよ、何しに来やがった」
「ちょっとお宅の屋根を直しにな。にしても、女の子をいじめるたぁ悪い男だねェ」
銀時が面白そうにニヤニヤしながら土方を見る。
「うるせェ、ただの躾だ」
「あんまり怒ると血管切れるよ?」
「つまんねェ意地張りやがるから謝らせただけだ」
土方は煙草を一本手に取り、火をつける。
なるほど、拗ねて出てったんだな、と銀時は思った。
「ま、鬼の副長に怒鳴られりゃー無理もねェか」
「アイツがそんくれェで泣くタマかよ」
「何、おめ、手出したの? よくないよー暴力は」
「テメェにゃ関係ねェだろ。ちょっと尻ひっぱたいただけだ」
銀時が目を見開いた。
「尻叩きィ? 多串くんそりゃいくらなんでも子供扱いしすぎだろ」
「誰が多串だ。14だってまだ子供だろーが。あの強情娘に謝らせるにはこれが一番なんだよ」
その言葉を聞き、銀時は静止する。
「あのー、それって大人の女にも効果ありますかねェ?」
「あァ? テメェんとこの女のことか? デカい方の」
「そうそ、のほう。あのお嬢さんがとんだ強気っ子で困ってんだよ。いくらツンデレが流行っててもね、アレは酷いよ、うん。多分アイツ生まれてから謝ったことないんじゃねーの?」
土方は煙を吐いて、銀時の説明に納得しつつ聞いていた。
「で、どーなの」
「さァな。テメェで試してみろ」
面白い話を聞いた、と思った。
土方が子育てをしているのは知っていたが、尻まで叩いて叱っていたなんて。
いや、問題はそれではない。
そんな方法があったとは。
は普段は明るくて可愛いやつだが、ひとたび機嫌を損ねるとむくれるわ逆ギレするわそりゃあもう大変だ。
一度くらい謝らせてみたい。
銀時の意地悪心が騒ぐ。
帰路でそんなことを考えていた矢先、銀時が万事屋に戻ると寝室へ通じる扉が壊れていた。
これはのしわざだ。
気に入らないことがあると物に当たる悪癖がある。
(こりゃあ早速チャンスか?)
ニヤッと笑った銀時は、を問いただすことにした。
「ちゃ~ん、こりゃどういうこった?」
「……何が?」
は明らかに不愉快そうな顔で振り向く。
「とぼけんなって。この扉、まーた壊したんだろ? 足で閉めんのやめなさいって言ったでしょ」
「……うっさいなー、しょーがないじゃん、壊れたもんは」
「そんな言い方していいのかね~」
「……何よ…………」
銀時の様子が何となく違うことには気が付いたようだ。
「ポジション的に銀さんは巷で言うところのご主人様なわけだが、お前はご奉仕どころか悪さばっかりしやがってな~。ホントとんだメイドさんだわ」
「はぁ? 何の話……」
「主人の家を壊してその口の聞き方。許されると思ってんの?ん?」
「…………………」
確かに、銀時に雇われていることには違いない。
が口をつぐむ。
「どうやら銀さん甘やかしすぎたみてーだな、うん。ちょっとお仕置きが必要なんじゃねーの?」
「……何言ってんの、いい加減に……」
顔をそむけて立ち去ろうとするの肩に手を置き、自分の方へ向かせる。
「、銀さん結構怒ってるんだけど?」
低めの声で言われて、思わずひるむ。
「なっ……ちょっと、触んないで!」
「ほーら、その言葉遣いと態度を銀さんが直してあげようね~」
威勢は良くても、力は銀時が圧倒的に上だ。
抵抗するを引っ張ってソファまで行き、腰掛けた自分の膝に引き倒した。
「悪い子はちゃーんと謝るまでお尻ペンペンだ。膝の上でしっかり反省しなさい」
「いやっ……やだ、何すんのよっ!」
はジタバタと暴れるがビクともしない。
そうこうしているうちに下着までが下ろされた。
「ちょっ…なっ…!」
ペロンとお尻を出され、は顔を真っ赤にする。
パァン!
「きゃぁっ!」
痛みというより衝撃に驚いたようだ。
パァン! パァン!
「いっ……たぁっ……ちょっと!」
「何だ? 謝る気になったか?」
「……………っ、誰が!」
パァン!
「ひっ……!」
「そんなこと言ってる間は許せねェなぁ」
「いっ……っ……ぅ……」
「悪いことしたら何てゆーの? んー?」
は銀時のズボンを握り締めて睨みあげる。
もちろん叩かれているお尻は痛い。
だが、こんな言い方をされては謝るものも謝れなかった。
「……っ………………」
「ちゃーん、ごめんなさいはー?」
銀時がの顔を覗き込むようにして問う。
すると返ってきたのはおよそ素直でない言葉だった。
「…………言わないっ……!」
銀時の頬が引きつる。
(……絶対泣かしてやる、このヤロー)
こめかみに青筋を立てつつ、銀時は大きく右手を振り上げた。
バチンッ!!
「やあっ………!」
の体が跳ねた。
これまで以上の強さで打たれた痛みで、思わずといった具合に手でお尻を庇う。
「おい、手どけろ」
はぶんぶんと首を横に振る。
仕方なく銀時が腕を掴み、平手が再開される。
「ひゃぁっ……あぅっ……ああっ…っく………」
もう声を抑えることもできていない。
更に銀時が問いかける。
「何て言うんだ、」
バチンッ!!
「ひっ………」
一層強い力を込めた一発に、遂に観念したようだ。
「…っ……、ごめん……なさ…い……」
が声を絞り出すようにして言った。。
銀時は少し呆ける。
自分で言わせたのだが、何というか、感動した。
これまで、に謝られたことなんてなかった。
悪さしようが喧嘩しようが、自然に仲は直っていたのだが。
それが、たった一言で、こんなにも許す気持ちが生まれるものなのか。
「よし、もう仕置きは終わりだ」
服を戻して、を自分の膝に座らせる。
の目には、涙が溜まっていた。
銀時が頭を撫でてやると、堰を切ったようにボロボロとこぼれ出す。
「…っ………ふえぇ……んっく…」
笑っているか怒っているかの姿しか見せたことのないが子どものように泣き出すのを目の当たりにして、どんどん頭が冷えていく。
「あー泣くな泣くな。……まァな、俺も悪かったわ。ちょっとキツく叩きすぎたな」
「……っく…………ひっく……」
「もう怒ってねェから。悪かったよ、泣くなって」
あれ、何で俺が謝ってんだ……?
そう思いつつも、まぁいいか、と考え直してしばらくの頭を撫でる銀時なのだった。
<あとがき>
銀さん、スパの目覚めの巻でした(笑)。
ちゃんは万事屋メンバーのひとりというポジションですね。
銀魂内って、こうやってスパが蔓延していくような気がしてならない。
彼の場合は興味本位から始まり、だんだん叱るのが上手くなるんじゃないかな。
そういえば子どもには、叱ったことを謝っちゃダメとか聞いたことあるような気がしますけどね。
「うちの子じゃない!」とか言ったことに対しては別でしょうけど。
その辺でキャラの個性が出せていれば幸いです。
とりあえず銀さんも、徐々にお仕置き慣れしていくと思われます。
09.04.09