夜遊びはほどほどに
銀時「……遅いアル……」
神楽が玄関を覗く。
「確かになかなか帰ってきませんね。もう10時になりますよ」
今日は、遊びに行くと言って出て行ったきりまだ帰らない。
銀時より年下とはいえ、もう子どもではないのだしと門限は設けられていないのだが、ときどき連絡もせず帰宅が遅くなることもある。
「あー、そのうち帰ってくんだろ。俺が待ってるから神楽はもう寝ろよ」
「…………もう少し起きとくアル……」
初めてのことではないので銀時はどっしり構えようとしているが、とはいえ9時を過ぎたあたりから落ち着きがない。
友達と遊ぶと言っていたが、そのまた友達とかで悪いやつがいたんじゃないのか。
夜の歌舞伎町は物騒だ。帰り道で何かあったんじゃないのか。
さまざまな可能性が頭をよぎる。
「それにしても心配ですね……ちょっと外へ様子見に行ってきましょうか」
「お前も帰っていいぞ新八」
「さんの顔を見るまで待ちたいんですが……いいですか?」
「……別にいーけどよ」
別にいいが、少し不都合だ……と、銀時はひそかに考えた。
「……さん、まだ帰ってこないんでしょうか」
「神楽ー、もう寝ろ。11時過ぎてんぞ」
神楽はソファに座って目をこすりながらテレビを見ている。
「ん…だめアル……夫が帰ってくるまでは起きて待ってるのが妻の務めネ……」
「いつさんと婚姻関係結んだんだよ!」
「ま、そのうち寝ちまうだろ」
「寝ないヨ! 私、が心配アル……無事な姿見るまで寝るわけにはいかないネ」
とはいえ、まぶたは今にもくっつきそうだ。
新八も眠気と戦っているようである。
「………まったく、困ったお嬢さんだこった」
銀時が軽くため息をついた。
それから数時間が経過した。
日付が変わるのを待てず神楽はソファで眠りにつき、銀時が寝室まで運んだのをきっかけに客人用の布団を出し、新八も床につくよう言った。
現在、午前3時にさしかかっている。
ただ待つだけの時間がこれほどまでに長いものか。
いや、単なる待機ではない。不安が伴うからこそ長いのだ。
そのとき、カラ……という音がした。
玄関だ。
引き戸なのでどうやっても音が鳴る。
即座に銀時は玄関まで急ぎ、灯りをつけた。
「…………なんだ、起きてたの」
だった。
若干愛想のない語り口。
怒られそうになると機嫌が悪くなるのには困ったものだ。
無事に帰ってきたことに、ホッと胸を撫で下ろす。
しかし、銀時の表情がほころぶことはなかった。
「……今何時だと思ってんだ」
仁王立ちの銀時が低い声で問う。
「……………………」
何も答えない。
多少は後ろめたさがあるらしい。
「……とりあえず上がれ」
銀時が背を向けて歩き出すと、後ろではぁ……という声が聞こえた。
(……溜息つきてェのはこっちだっつの)
リビングのソファに対面して座る。
は視線を逸らしている。
「……もう一度聞くぞ。今何時だ」
そう言ってを見つめる。
は不機嫌そうな顔をして、銀時と目を合わせようとしない。
「……私は、遅くなりそうだからいっそ寝てる時に帰ろうと思っただけよ」
「いいから答えろ。今何時だって聞いてんだろーが」
語気を強めて銀時が言う。
動揺したのか、は落ち着きなく何度も腕を組みなおしていたが、ややあって答えた。
「……3時だけど」
「どこで何やってたんだ」
「11時くらいまで店で食事して、そのあとは友達のところ。ここから近いし」
「どうやって帰って来た?」
「……………。……ホントにすぐそこなんだから。こんな時間なら変質者もいな……」
「どうやって帰って来たのか言え」
言い訳しようとするに銀時が一喝した。
「……歩いて……」
小さな声でボソッとつぶやく。
その言葉を聞いて、銀時も小さく、しかし鋭い目でを見据えて言った。
「…………こっち来い」
の表情が少し変わった。
これまではただ不満を露わにしていたが、そこに恐怖心が混じる。
「…………………………嫌」
「そうか。じゃあ俺が行くわ」
言うなり、すくっと立ちあがっての元へ迫る。
「……いっ、嫌だってば!」
「だから俺が行くっつってんだろ」
「やっ、来ないでよっ……やぁっ……」
銀時がの腕を掴む。
は振りほどこうとするが、銀時の力に敵わない。
「ひゃぁっ……」
の手足が宙を掻く。
銀時はを自分の膝に乗せた。
そして躊躇することなくスカートを捲り上げ、一気に下着を下ろす。
そのままのお尻に一発目の平手をお見舞いする。
パァンッ!
「いやっ……」
パァンッ! パァンッ!
「いっ……たぁ……やめてったらっ……」
銀時は叩く手を休めることなく、ゆっくりと口を開いた。
「……口うるさく何時に帰って来いとは言わねェよ。てめーも遊びたい盛りだろ、少々ハメはずすのも結構だ。だけどな、限度ってもんがあるだろ」
「………っ………った、い…痛いっ……」
「せめてタクシーくらい使え。人通りがない方が危ねェこともあるんだ」
「…………………っ…」
が黙り込む。
お尻への衝撃でかすかに息だけが漏れた。
「今回は許さねェ。泣いてもわめいてもやめねェからな」
バチンッ!
「…ぁうっ……!」
思わず声が出たのは、強く叩かれたせいなのか、それとも銀時の宣言のせいなのか。
しかし、こう言われて素直になれるではない。
「……関係ない、でしょ…」
「………………………」
叩かれながらもの声は強気だ。
銀時の眉が少し動く。
「……なんで、そんなこと、……言われ、なきゃ……いけないのよっ…!」
「………………………」
「誰にもっ……迷惑、掛けて……ない、じゃない…」
一瞬、銀時の手が止まる。
「…………そうかよ」
バチィンッ!
「…ひあぁっ……! ……っぅ………」
力いっぱい右手が振り下ろされた。
が体をのけ反らせて悲鳴をあげる。
バチンッ! バチンッ! バチンッ!
銀時は左右の尻っぺたを続けて打ち始めた。
「やっ……あっ……あぁっ……っう……」
の表情が痛みに歪む。
手足をバタバタさせるのを銀時が足で押さえた。
「ひっ……ゃあっ……っ……あぅっ……っく…」
暴れることも叶わず容赦なく叩かれ、痛くて怖くてどうしようもない。
ぎゅっと瞑った目から涙が零れ落ちた。
「……誰にも迷惑掛けてないだァ? 笑わせんな。神楽や新八がどれだけ待ってたと思ってんだ」
「……やぁっ………っく……ひっく…」
「それでも謝る気ひとつ起きねェっつーのか?」
は肩を震わせてて泣きながらも、何も言わない。
「……めいっぱいケツ叩かれりゃわかるんならそうしてやるよ」
銀時はさらに力を強めて打ち据える。
真っ赤になったお尻への強烈な平手に、が跳ね上がった。
「眠い目こすった神楽が、物音するたび玄関まで走った回数か? 新八がてめーの話題を切り出した回数か?」
「……っく…ぅ…………」
「それとも俺が想像した最悪の状況1000パターン分、くらうか!?」
首をぶんぶんと横に振る。
「……っく……も、やだあぁぁっ……いたぁいっ、いたぁいいぃっ、銀ちゃあぁん……っくぅ……」
「泣いてもやめねェっつっただろ。どうやったら終わるか考えろ」
「……っ……………」
が少しためらう。
しかし、もうこのお尻の痛みに耐えられなかった。
「……ぅっく……ごめん、なさいっ…………」
銀時の表情がフッと柔らかくなり、叩いていた手が止まる。
「……明日、神楽と新八にも謝れよ。わかったな」
「………わかった…………っく……」
「んじゃ、あと10発。これは俺の分」
「…………………へ……?」
バチィンッ!
「ひあぅっ………!?」
最後の10発で徹底的に懲らしめられ、お仕置きは終了した。
少し恨めしそうに銀時を睨んだ後、泣き疲れたは布団に横になりすぐに寝つく。
……もちろん、仰向けではない体勢で。
ひとり残されソファに腰掛けていた銀時は、しばらくして立ち上がり手首をくるくると回す。
「あー、右手痛ェ……」
銀時も心配していなかったはずがないわけで。
やっと安心して眠りにつけるのだ。
――次の日。
「…………あの…昨日は……ごめん」
「いいんですよ、無事に帰って来たんですし」
「! 私すっごく心配したヨ!! スコンブも喉を通らなかったアル」
お仕置きが効いたのか、はちゃんと謝ることができた。
これでも、にとっては及第点だ。
「……ま、次から連絡くらいしろよ」
銀時はテレビを見ながら、興味なさげに言った。
その隣へ新八が近づき、他の二人に聞こえぬよう小声で話しかける。
「……ちょっと、アンタ何を寛容ぶってるんですか。……何もあそこまで怒ることないでしょう!」
「………聞こえてたか、やっぱり」
銀時の説教、お尻を打つ音、そして何よりの声で新八は起きてしまったようだ。
「女の人を泣かせるなんて最低ですよ! だいたい、銀さんは…………」
「あー、はいはい」
銀時は、新八の説教をくどくどと聞かされるハメになるのだった。
<あとがき>
銀さんにはもちろん、神楽や新八にも心配かけて、それをわかっていないちゃん。そこでちょっと厳しめなお仕置き。
これがやりたくて! これがやりたくて1本目2本目を書いたんです!(笑)
銀さんでは一番初めにこれを書いたので、ここへ持っていこうと前の2つを考えました。書き始めが1回目ならキツいお仕置きは3、4回目くらいかなぁと。
新八がお仕置きに気づいちゃった感じで、そういうの苦手な方には申し訳ないです。
でもお尻ペンペンとわかったかどうかは言及してませんからね。
少なくとも銀さんがえらく怒ってたのは聞こえていたんでしょう。
私はと言うと、お仕置きされてることを人に知られてるネタは好きなときと駄目なときが。
場合によりけりですね。
あとがきが長い。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
09.08.12