gentle

幸村精市

デフォルト名:寺本 美緒



「いい加減にせんか!!」
 ビリビリと空気が震えるほどの大きな雷が落とされる。
 些細なことから言い合いになって最終的に真田が大声で怒鳴り、コート内が静まり返った。
「っ…………」
 私も一瞬ひるむけど、いろんな感情が涙となってじわじわと溢れる。
「……うっわああぁぁぁあんっっ!」
 顔を覆いもせず子どものように泣きだすと全員がこっちに注目した。
 はらはらして見つめるギャラリーの間から、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
「どうした、
 他の人たちのように心配そうな顔をするでもなく、はたまた慌てるでもなく、悠然と現れたのは幸村精市。
 迷うことなく抱きつき、胸に顔をうずめて泣き喚く。
「せっ…、いい、ちぃぃっ……わあぁぁんっ」
 そんな私の頭と背中を撫で、小さな子をあやすように言って微笑む。
「よしよし、俺がいるからもう大丈夫。ほら泣かない泣かない」
 そして真田の方を向き、フッと鋭い目つきを見せたあと再び微笑んで言った。
「何があったんだ、真田?」
 真田はバツが悪そうに帽子を被り直し答える。
「い、いや、大したことではない」
「大したこともないのにを泣かせたのか」
 にこにこと黒い笑顔で精市は言い放つ。
「真田、向こうで俺と一球打ってくれないかなぁ」
 そのあとコートで真田がフルボッコにされていたような気がするが、とにかくだ。
 こういうとき精市はものすごくやさしい。

 しかし。
 自分が怒ってるときは、こう。

「うっ……ぅ……っ、ご、めんなさっ…ぁ……ぐすっ……ごめん、…なさいぃ……っ…」
 真っ赤になったお尻を出したまま正座をして、止まらない涙を拭う。
 正座を強要されたわけではないが、今この状況で正座以外に適した座り方を私は知らない。
「泣いても許さないぞ」
 精市は座ったまま私を見下ろす。
「はんせ、したからあぁっ……っうく……ううぅぅっ……ごめんなさいぃ……」
「じゃあここに来られるだろ? おいで」
「…うぅっ……く……も、やだあぁ……無理ぃっ……」
 さっきから膝に乗せられては逃げ、逃げてはまた乗せられを繰り返している。
 精市の力なら私を押さえておくことくらいできるはずだけど、それをしないってことはおとなしく受けろってことなんだろうか。
 いちいち逃げる私に、精市が怖い顔で戻れと言う。

 途中で休憩をはさむことでお尻の感覚が戻って、また一からの痛みになってしまう。
 回数は少ないのに、続けて叩かれるよりもずっと辛い。
 もしかして、それをわかっているから逃げても止めないんだろうか。
「……はじめからやり直しかなぁ」
 精市が少し苛立った口調で腕を組んで背もたれに寄りかかった。
 私は全力で首を横に振る。それはもう取れそうなくらい。
「あと10回だろう、。早く来ないと本当にはじめからだぞ」
 10回って簡単に言うけど、10回中の10回だよ。
 3分の1って結構だよ。
 もう十分痛いのに、あと10回なんて無理。
 でも精市なら本当にはじめからやりかねないし、こうしている間にお尻の痛みは少し引いていて、さっきほどの恐怖はなくなっていた。
 この油断のせいで、足が精市の方へ向く。
「はい、いらっしゃい」
 少し満足げに精市が言うと、お仕置きが再開される。
 パァン!
「あぅっ……ぅっく………」
 声を抑える余裕なんてとっくにない。
 これ以上逃げないようにしっかりと腰を掴まれた。
 これまでの重い一発と違って、短いスパンで一気に叩かれる。
「ごめんなさいっ、ごめんなさぁいぃっ……」
 痛みに比例して声が大きくなる。
 とにかくごめんなさいしか言えなくて、精市のズボンをぎゅっと握って耐える。
 精市の手が止まり、あぁ10回終わったのか、案外早いなぁなんて思って体の力が抜けた。

「さては何度逃げたでしょう」
 いきなり問題を投げかけられて、とっさに適当な数字を答える。
「……5、回…………?」
「はずれ、7回」
 7回も逃げてたのか……。だって一打一打が痛かったんだもん。
 それでもなんとかお仕置きは終わって……
「じゃあ7回追加だね」
「え……」
 さらっと言ってのける精市を見上げる暇もなく、平手が降ってきた。
 バチンッ!
「ひぁっ……!」
 鬼っ! 魔王っっ……!
 きっちり7回追加されて、やっと許してもらえた。

 精市の膝に座って、頭を撫でられながら息を整える。
「甘えんぼうだなぁ、は」
 こんな状況にさせたのは誰なのよ。
 そう思いつつも精市の温もりは心地よくて、しおらしく身を委ねてしまう。
「……それ、痛くないの?」
 視界に入る赤くなった右手のことを聞くと、精市はひらひらと振ってにこやかに言う。
「心配してくれるのかい? ありがとう、俺は平気だよ」
 伊達に鍛えてないよ、とクスッと笑った。
のためなら、俺はなんだってするから。には嫌がられちゃうかもしれないけどね?」
 本当に、こういうとき精市はものすごくやさしい。
 だからやっぱり、好きだなぁと思ってしまう単純な私なのであった。




<あとがき>
 ギャップ萌え、という話でした(違)。
 原因は何かとかそういうのは全然考えていなくて、スパシーンもいつもに増して薄め。
 幸村が「を泣かせていいのは自分だけ」と思ってそうだなぁということで書いてみました。
 回数決めるお仕置きはそんなに書かないんですが、よく言う逃げたら回数追加ってのをやってみたかったのです。

 しかし幸村の口調難しいですね!
 声の割に男っぽい喋り方なので、文章だけだと誰だかわかんないような……。
 是非さちんボイスで脳内再生してください。


10.06.06