トロフィーを壊しちゃった~立海ver.~
カランカラン、と嫌な音がした。
「……ぎゃああああっ!!!」
「なっ、なんスか先輩、……げ」
突然の大声に赤也がの方を向いて、固まった。
の足元に転がるプレート。
それは『立海大付属中』と書かれており、目の前のトロフィーにはあるはずの文字がなくなっている。
つまり、取れたということだ。
現在、部室にはと赤也二人きり。
一番怒りだしそうな真田がいなかっただけでも幸いだったが、安心はできない。
は大変なことをしてしまったと、パニック状態になっていた。
「どうしよう……どうしようどうしよう真田に知れたら! ねぇ赤也どうしよう!!」
「しょ、正直に言えば大丈夫っスよ」
顔面蒼白でうろたえるに、とりあえずそう言うしかない。
「……本当に大丈夫だと思ってる?」
実際、そうはいかないだろう。
言わずにバレたらこっぴどく怒られるが、自分から言ったからといってタダで済むとは思えない。
だが、経験上黙っておいて良いことはないと考える赤也はなんとか説得しようとする。
「そりゃ、ちょっとは怒られるかもしれませんけど……黙って大人しく聞いてりゃすぐ終わりますって!」
こんなことを真田本人に聞かれたらおおごとだが、を奮い立たせるためには仕方ない。
しかし、赤也の思いに反して、の目にはみるみるうちに涙が溜まっていく。
「怒られるのやだよぉ~……うえーん……」
しまった、逆効果だった。
力なく泣きだしたに赤也は慌ててなだめようとするが、、何と声をかけていいかわからず、ただわたわたするだけだ。
すると突如、ガチャリとドアが開く。
二人は咄嗟にトロフィーを体の後ろに隠した。
そこへ現れたのは幸村だ。
「どうしたんだい、赤也。を泣かせちゃ駄目じゃないか」
が泣いているのに気付いた途端、面白そうに赤也をからかう。
「ぶ、ぶちょ、違いますって! 何でもないっスよ!」
幸村に知られてはまずい、と赤也が必死に庇っているというのに、は無防備に幸村にすがっていった。
「幸村ぁ~……これ、壊しちゃった……ちょっと当たっただけなのに……」
どうしよう~、と涙目で助けを求める。
そうだ、部長は先輩に甘いから、先輩は警戒しないんだ。
赤也は気がついたものの、そうは言ってもハラハラしながら事態を見守る。
「……そうか。よく正直に言えたな。えらいえらい」
にっこり笑っての頭を撫でてやる幸村。
あまりにも寛大な対応で、赤也は目を丸くする。
(この人、意外と優しいのか……?)
「ねぇねぇ、真田怒るかなぁ……」
否定の言葉が欲しくて、は幸村に尋ねる。
「うん、烈火のごとく怒るだろうね」
その希望を突き放すように、笑顔ですっぱりと答えられた。
「こんな大切な物を壊したとあっては、少々の説教では済まないだろう」
「う……」
「もしかしたら、鉄拳がとぶかもなぁ」
「ひっ……!!」
おさまりかけていたの涙がまた溢れだす。
前言撤回。やっぱり優しくなんかない。
幸村がの反応を楽しんでいると、部員たちがぞろぞろと部室に入ってきた。
「何だ、騒々しいな」
「あっ、副部長……」
先頭にいたのは真田だった。
「む、それは……」
すっかり怖がっているは手元の物を見られ、観念したように言う。
「さ、真田ぁっ……これ、取れちゃって……ほんのちょっと触っただけなんだけど、……ごめんなさいごめんなさいっ!」
ぎゅっと目をつぶってトロフィーを差し出す。
すると真田が口を開く前に、の周りでレギュラー達が次々と喋り出す。
「……てかコレ、元々取れてただろぃ」
「ああ、ずいぶん前からな」
「正確には、二年前の5月16日だ」
「私たちが一年生の時のことだそうですね」
「ピヨ。、知らんかったんか」
「え……?」
赤也とが声を揃える。
「がマネージャーになったのは二年からだからね」
横でニコニコしながら幸村が言う。
「幸村部長、まさか知ってて……」
「ふふ、は本当に可愛いね」
この人はやっぱり的に回したくない、と赤也は心から思った。
「じゃあ真田、怒ってない……?」
「触れば取れるものを、俺が怒る理由はなかろう」
は安心感から、その場にへたり込む。
「なんだぁ~……よかった……」
しかし隠していれば話は別だったがな、と真田が言ったのを聞いて、やっぱり常習犯はわかってるなぁと、赤也を見直したなのだった。
<あとがき>
赤也は先輩に囲まれてるといい。
そしてヒロインは赤也に先輩としてかっこつけようとか思ってないといい。
そしてそして真田にビビってるといい。
今回は幸村はただ面白がってるだけで、カーっぽい立ち位置からは外れてもらいました。
こういう、怒られ(もしくはその危機)だけのお話も好きです。
ただ「怒られたくないー」って泣かせたかっただけとも言える。
10.06.08