トロフィーを壊しちゃった~四天宝寺ver.~
パキン、カラカラカラ……と軽めの金属音が転がる音がした。
「ああああぁぁぁっ!!」
が叫ぶと、部室内にいた金太郎が駆け寄ってくる。
「どないしたん! ああっ、取れとるー!!」
府大会優勝などのトロフィーが並ぶ中のひとつ、比較的小ぶりなものがの服に引っ掛かって落ちたのだ。
そして、まずいことにてっぺんの細く脆い部分が壊れてしまったようだ。
「どうしょう金ちゃん……」
「とりあえず白石呼んでこよ! しらいしー!」
金太郎は部室から顔を出して白石を呼ぶ。
その声に気付いて白石が中に入ってきた。
「なんや金ちゃん」
「どうしょう白石……これ落としてもうた……」
奥にいるが、左手に本体、右手に破片を持って白石に見せる。
「あーあー、これ……地区大会か。去年のやな……」
本体を手にとって文字を読む。
「なぁ白石! 毒手でなんとかならへん?なぁ、なぁ!」
「金ちゃん、残念ながら毒手にそんな性能ないねん」
親身になって心配する金太郎だが、白石が見た限り嵌め直したりして元通りになるような取れ方ではなさそうだ。
す ると、さっきの金太郎の声を聞いたらしい小石川と千歳がやってくる。
「白石、なんやそれ」
「あぁ落としてもうたらしいねん」
「ごめん、私や……」
「割れてしまっとるばい。くっつかんとね?」
ざわつく部室の前を通った小春とユウジも入ってきた。
「どうしたんや? それ、トロフィー……上んとこ取れたんか」
「いやー! えらいことやないのー!」
みんなで寄ってたかって修理を試みるが、どうにもなりそうにない。
コートから人が減ったことに気付き、石田と謙也、財前も集まってきた。
「みんなして何や……うわっ、それ!」
「直すのは……難しそうやな」
「私が落としてん……」
「先輩、ほんまおっちょこちょいっすわ……」
の周りを9人が囲んで、壊れたトロフィーを見つめる。
「うーん、これは直せんなぁ」
「ボンドとか使わな無理やわな」
「使たらあかんの?」
「あかんやろ」
「…………やっぱり、怒られるかなぁ」
あきらめムードの中、がポツリと言うと、一瞬場が静まりかえる。
張本人であるがうつむいて気を落とす様子を見て、一同は一斉にフォローしようとする。
「い、いや……わざと落としたわけとちゃうし……、な?」
「謙也の言うとおりや! は悪ないで」
「そ、そうたい! 気にすることなか」
「しゃーないっすわ」
「形あるものはいつか壊れるんや」
「銀さんええこと言うわぁ! ちゃん、落ち込まんといて!」
「誰もを責めたりせぇへんよ」
「大丈夫や! はワイが守ったるでぇ!」
それでも顔を上げないに、再び部室がシーンとする。
「おう、お前らここにおったんか。何やってんねん」
そこにもう一人入室した。顧問の渡邊オサムだ。
「あぁオサムちゃん、これ直らへんかな……」
白石がトロフィーを見せると、渡邊があっさり答える。
「こんなもんアロンアルファで一発や」
さも簡単そうに言ってのける顧問に皆が注目する。
「え、ええの? そんなん……」
「かまへんやろ。なんや、去年のやつやん。地区大会なんか毎回勝つねんから誰もわざわざ見いひんて」
が目を白黒させる中、渡邊がトロフィーを手に取った。
「取れたもんは付けたらええ」
机の上にそれらを置き、棚の中の接着剤を探し始めた。
はパァッと表情を明るくして、さらに尋ねる。
「ほんなら、私怒られんですむかなぁ?」
「怒られるって、誰に?」
何気なく聞き返した渡邊の言葉に、部員たちが顔を見合わせる。
「そういえば、誰に怒られんねん」
謙也が聞くと、が首をかしげた。
「さあ……誰にやろ……」
誰からともなく皆が吹き出し、部室が笑いに包まれる。
「もー、なんやそれー、っははははは」
「よう考えたら、こんなことで怒るやつなんか俺らの中におらへんわ」
「ま、無駄な気苦労やったっちゅーことやな」
「ふふっ、そやね。みんなありがとう」
四天宝寺のテニス部は、今日も平和で楽しいです。
<あとがき>
仲良し四天宝寺。
オサムちゃんは最後にやってきて問題をあっけなく解決しちゃうような、こういうかっこよさを持ってると思う。
これが中学生と27歳の器量の違いだよね!w
私の四天のイメージは基本こう。カー不在。
そら時には白石が黒かったり財前がドSな話があってもいいんだけど。
というか千歳。
大阪弁は自分でも喋るからいいとして熊本弁がさっぱり……
私は千歳とミユキちゃん、あと比嘉の夢小説は書ける気がしない。
10.06.08