英語3点~真田の場合~

真田弦一郎

10月31日(金)
デフォルト名:岩下 美由紀



「たるんどる!」
 ああ、声がでかい。
 予想していたことだったが、至近距離で怒鳴られるとなかなか来るものがある。
 何がたるんどるかというと、テストの点数だ。
 マネージャーとはいえ同じ男子テニス部に所属しているからと、英語教師が副部長の真田に告げ口したらしいのだ。
 なんてひどい。プライバシーの侵害だ。
 実際は点数じゃなく、赤点という抽象的な伝え方だったようなので、ここは助かったというべきか。
 3点という数字を知られたらどうなることやら。
 これでも多少は気を遣ったのだろう、私だけを部室に呼び出したまではよかった。
 だが、あれだけの大声を出せば、私が何らかの理由で怒られているのは周囲にバレバレだ。
 これじゃデリカシーがあるんだかないんだかわからない。

 ぶっちゃけ、真田のことは嫌いじゃない。
 というかむしろ、私はこの男のことがちょびっと好きなのである。
 せっかく二人きりになれたというのに、掛けられた言葉は「たるんどる」。
 自然とため息が出た。
 まぁ、テストの点がひどかったのは事実。
 はいはい私が悪ぅございましたよ。
 赤点を取って十分に後悔はしているのだから、これ以上何を言われても憂鬱な気持ちが募るだけで何もいいことはない。

 そういう投げやりな態度が透けて見えたのか、真田は眉根を寄せて言った。
「これまでお前を甘やかしすぎていたようだ」
 今まで甘やかされた覚えなんて全ッッ然ないんですが。
「今日という今日は許さん。お前は痛い目をみんとわからんようだな」
 殊勝なふりをしておとなしく説教を聞いていたつもりが、不満を露わにしてしまっていたか。
 本格的に指導が入りそうだ。
 こうなっては黙っていられない。
「ちょっ……女の子に手をあげる気!? ケガとかしたらどうしてくれるのよ!」
 真田の鉄拳制裁を見てきた私は、思わず大きな声になって反論する。
 あんな風に殴られることを想像して身震いする。
 いやだ。きっと泣いてしまう。
「俺もそう思ったのだが、幸村に相談したところ尻叩きなら問題ないとのことだ」

 ……は? 尻?
 尻叩きって尻を叩くってことですか?
 真田が? 私の?
「……いやいやいや、それはちょっと、あの、遠慮しておきます」
 怖いとか恥ずかしいとかいうより、なんか単純にいやだ。
「それはお前が決めることではない。潔く罰を受けろ」
 真田に引っ張られて、お膝の上という典型的なお尻叩きの体勢をとらされる。
 幸村め、余計な入れ知恵しやがって……!
 バシッ! と、とんでもない威力で平手が落ちてくる。
「いっ……たあ――っ!! ちょ、っと、本気で叩かないでよ!」
「手加減はしている。文句ばかり言わずに反省せんか!」
 二発目も同じようにバシッ! と音を立てた。
「いっ……~~っ」
 普段、真田がテニスをしている姿はよく知っている。
 あの大きな手で、あの威力で叩かれていると思うと無意識に腰が逃げていた。
「動くな。まだたった二回だ」
「充分痛いってば! わかりました、反省しました! もう赤点取らないから許してくださいー!」
「そうはいかん。きっちり30回叩くまでは終わらんぞ」
「どっから出てきたのよその数字!」
「お前が反省するのに必要な回数だと蓮二が言っていた」
「柳、呪われろぉ――っ!! 痛あっ!」
 どうしてこんなに馬鹿力なのコイツ、本当に痛いんだけど!?
 3回叩かれただけなのにこれ以上とても耐えられそうにない。

 やだもう本当に、涙出てきそう。
 なんで真田にお尻叩かれて泣かなきゃいけないのよ。
 この状況がわけわかんない。
 そりゃ私は真田が好きよ、ええ認めますとも。
 だけど、だからといってこんな形で密着しても全然嬉しくないってば。
 真田も真田よ!
 同級生の女子にこんなことして平気なわけ? 何とも思わないの?
 いくら幸村や柳の差し金とはいえ、もっとなんか気を遣うとか、優しく注意してやろうみたいな気持ちにならない?
 この鈍感野郎!
「本当にやめてよ、暴力反対! 女子を叩くなんて男じゃないぞ真田! 最低! 変態!」
 頭に来た勢いで、思いつく限りの悪態をついてやった。
 すると、私の腰をしっかり掴んでいた腕の力が緩んだ気がした。
 やめろと言ったものの本当にやめられると不思議に思って、横目でヤツを見上げた。
 真田は神妙な顔つきで目を伏せていた。

「すまん。お前の言う通り、女に手を上げるべきではないのかもしれん。しかし、俺にはわからんのだ」
「わからんって、何が……?」
「成績が落ちてお前が困っているのではと……助けになってやりたいが、俺にはどうにもできんと思っていた。そこで幸村や蓮二が相談に乗ってくれた。俺にできることはこれしかないとな」
「そんな、なんでわざわざ……」
「お前が好きだ」

 えっ、と言おうとしたが声にならなかった。
 この流れで出る台詞じゃないし、人生初めてされた告白が相手の膝の上に腹這いになってる時だなんて聞いたこともない。
 でもでもそんなことより、本当に言ってるなら、それって相思相愛ってことで……。
 真田が私のことを好き、だったなんて。
 ああもう、今の状況とか体勢とか、テストで3点取ったこととか全部忘れちゃうくらい、頭の中が春爛漫になる。

 この世のすべてに感謝したい気分だ。
 幸村も柳もありがとう。
 あんたたちは恋のキューピットだわ。
「私も、……好き、だよ……」
 顔が見えなくてよかった、本当に。
 だって私、きっと今すごく真っ赤ですごくニヤけてて、とても見せられない表情だもん。
 きっと真田もそうなんでしょ?
 帽子を深く被り直して、照れてるに決まってる。
「真田が、私のこと思ってしてくれるなら、罰受けるよ……」
「そうか。ならばその……愛の鞭だと思ってくれるか」
「うん……」
 わぁ、真田でもそんなロマンチックなこと言うんだ。
 ちょっと寒いけど今の私にはそんなこと気にならない。
 彼の愛を感じながら罰を受けます……!

 バシィッ!
「いっ……たああぁぁっっ!!」
 さっきまでの雰囲気はなんだったのかというほどの、容赦ない平手打ち。
 罰を受けるとは言ったけど、手加減無用とは言ってない。
「やだ、痛いっ、痛いぃ~~ッ!」
 探るようだった最初の三発とは打って変わって、恐ろしいまでの連打が降り注いでくる。
 愛を確かめ合ったからもう平気だってこと?
 ずいぶんお気楽だなお前はっ!!
 そう口にしたとしても真田は動じず、平然と30まで数え続けるんだろう。そういう男だ。
「ああぁんっ……うわああん、ごめんなさぁあいっ! ごめんなさいぃ……!」
 同じ泣くにしても、彼の愛を受けて美しく情動の涙を流す……という予定だったのに、恥も外聞もなく子どものように泣き散らす羽目になってしまったのだった。

 やっぱり幸村も柳も呪われてしまえ。
 悪魔どもめが!!


<あとがき>
 甘いのかなんだかわからない真田スパ夢ができました。
 ギャグテイストになりましたが、キーちゃんもちょっと変わってるところがあったりしてお似合いなカップルだと思います。

 真田って力強そうだし体大きいし、バシバシ叩くのが似合うよな~とは思ってます。
 なかなか純なイメージなので、スパはアリなんだかナシなんだかよくわからない……のでたぶん続きませんw

 でも「最強チームを結成せよ」のゲーム内設定では、真田よりも幸村の方がパワーが1段階上なんですよね。幸村はパワーSで有名。
 ちなみに他のパワーSは(登場キャラ立海までで)タカさんと樺地だけですからね。やべーのがわかりますよね。
 それほど力強いと思って幸村スパを見るとだいぶ萌えます。すみません。

 単発ですが真田も書けて面白かったです!
 真田はね、幸村と違ってスパなんかしない優しい男の子だと思うの本当は(笑)。
 だからお仕置きするとしても、周りの口車に乗るとかそういう経緯がありそう。
 いいんだけどね、超絶頑固ジジイなカー真田でも。


17.06.18 UP