毒手ことはじめ
白石蔵ノ介デフォルト名:小松 絵里
部活後、男子テニス部一同はぞろぞろと校門へ向かっていた。
昼のことやけど、と白石がに切り出す。
「あれはお前が悪いで。次はちゃんとしぃや」
白石の小言はよくあることだが、みんながいるところで言わんでもええのに、とが拗ねてみせる。
「返事」
「……はい」
それ以上の叱責を避けるため、は渋々答えた。
「ほんま、白石の言うことは聞くんやな」
やりとりを見ていた謙也が羨むように言った。
彼女にはいつも、いいように使われているらしい。
「白石の毒手が怖いんやろー?」
金太郎が無邪気な笑顔でを見上げた。
そもそも、金太郎が毒手毒手と言い始めたきっかけはであった。
あれは今年4月、金太郎が入部したての頃だ。
白石を怒らせたは、部室でお仕置きを宣言されたところだった。
「蔵、いやや、お願いっ……」
準備を万全にしてから鍵をかけようとしていた白石だが、包帯に手をかけたところで金太郎が部室に飛び込んできた。
金太郎の目に映ったのは、包帯を外そうとしている白石と、涙目で許しを請うだ。
他者の存在に気づいた二人はハッとしてドアの方へ視線を向ける。
一方、金太郎は白石とを交互に何度も見て、彼なりに状況を察したようだ。
「毒手や! 毒手はアカン!」
突如そう叫んだかと思うと、二人の周りをピョンピョン跳ね回って喋りだした。
「マンガで読んだでぇ、焼けた砂と毒を交互に突き続けて、二週間くらい苦しみ続けると手に毒がしみて、その手に触れし者は死に至るっちゅーやつやろ!」
白石とは顔を見合わせる。
ポカンとする白石に対し、はニヤリと笑ってみせると、わざとらしく金太郎に泣きついた。
「金ちゃん、助けてぇ~」
やった、という顔をする彼女を見て、逃げよったなと白石は思ったが、同時にいい考えが浮かぶ。
見せつけるように包帯の端をピンと引っ張り、金太郎の前に左腕を突き出した。
「そうやで金ちゃん、これは毒手や。言うこと聞かへんゴンタクレは毒手の餌食になるで。覚えときや?」
金太郎は顔面蒼白でぶんぶんと首を縦に振る。
その背中に隠れていたは自分に言われたような気がして、同じく顔を青くしていた。
「ほんなら、先コート行っといてくれるか?」
わかった! と大きく返した金太郎は、あっという間に走って出て行ってしまった。
「マンガって、バキやろか」
「男塾ちゃう? ……ほんで、お仕置きするの?」
「……今日のところは、可愛い1年生に免じて堪忍したる」
それ以来、今ではすっかりお馴染みの、毒手が確立したのである。
「なぁなぁ、そうやろ」
腕にまとわりつく金太郎に、は苦笑いで返す。
「……そうやで。だから金ちゃん、私を毒手から守ってや」
「おう、まかせとき!」
金太郎にとっては脅しに過ぎない毒手も、彼女にとってはまさに凶器である。
本気で毒手に怯えていると勘違いされそうで癪であったが、それでも真実を知られるよりよっぽどいい。
またときどき金太郎に助けてもらおう、とひそかに目論むなのだった。
<あとがき>
白石の毒手の起源についてはこじつけですのであしからず!
四天はカー不在なんてSSを書いていますが、カーな白石もいいですね。
スパ描写なしだけどスパっぽい話というのも、ときどき書きたくなります。
14.09.08 UP